諸塚村森林認証研究会
Morotsuka Reserch Society
for Forest Certification

講師の皆様のご意見
ご参加された講師から、後日に今後についての貴重なご意見を頂きました。
皆様ありがとうございました。

堺 正紘氏(九州大学名誉教授)

  過日の森林木材認証フォーラムではお世話になりました。お陰様で実り多い時間を楽しむことが出来ました。

 森林・木材認証がボランタリーな試みであり、直截に売り上げや利益の増加を期待することはできない、という指摘は全く正しいと思います。しかし、そうは言いながらも、心ある消費者や企業の琴線を揺り動かす契機にはなります。その意味で、売り上げや価格上昇の可能性はあるといえるでしょう。
森林認証のための経費負担について、ある県では持続的森林経営の推進ということから、その経費の一部を助成する道を開いています。

 新生産システムについては、反対の多くが素材生産量を現水準に固定し、需要が増えることを問題にするものです。需要の増加は材価の上昇につながるわけで、森林経営者には反対する理由はありません。問題は、中小製材サイドからの反対をどう考えるかということですが、需要増加に対応する素材供給増さえあれば反対する理由はなくなります。また、こうした形で国産材の需要量が増加することは、中小製材にとっても大いなる利益になるはずです。

 しかし、素材生産の拡大のためには、森林所有者の協力を得なければなりませんし、素材生産業者の能力の向上を推進しなければなりません。
繰り返しますが、いずれにしても新生産システムは、森林経営者にとって待ちに待った環境です。
このような観点からの普及、指導を願いたいものです。

 もっとも、素材生産拡大と伐採放棄地の発生は直接、結びつくものではありません。放棄地の発生は、我が国の林業政策に、伐採政策が欠落していることの結果です。
 伐採届け受理を市町村業務としながら、その内容の検討や指導の余地を与えていないことに問題があります。したがって、市町村は、伐採届け出制度は良い機会ですので、伐採方法や伐採後の更新方法等について主体的に考え、放棄地の発生を未然に防ぐ方策を高じるべきだと思います。まさに山村自治体に課せられた課題ではないでしょうか。

事務局からの意見

まず、「森林・木材認証がボランタリーな試みで直截に売り上げや利益の増加を期待することはできない」というご指摘には疑問を感じます。ディスカッションでいわれた、森林認証機関というボランタリーな組織とは、「自発的な」試みをなす組織であり、政府など特定権力の支配を受けない「自主的な活動」ということであり、ゆえにむしろ自発的な活動のほうが、主体性がうまれ、これからの持続可能な林業を支えるものになり、新しい林業の突破口となると考えております。補助金に依存してきた出口のない世界のほうが、国が目指そうとされている経済追求に即した変革は困難だと思われます。山が自ら判断する「自発的な自立の精神」これまでの諸塚村の一連のフォーラムの根幹をなす精神の一つであり、重要なスタンスです。

 新生産システムについては、議論不足でしたが、この問題は流通の論理一辺倒であることにあると思っています。ゆえに問題は中小製材サイドにあるのではないと思います。 この点からだけいえば正直言って、経済活動の問題であり、しかも大工場にできない、細かい製材技術があれば生き残る術はあると思います。中小製材業のことだけなら需要増加に対応する素材供給増さえあれば反対する理由はなくなるのは先生のおっしゃることはが正論で、地場産業の育成などという都合の良い論理で反対する業者の論理に社会性はない気がします。
 繰り返しますが、この政策はあくまで「流通」の施策であり、わたしの知る限り、山元の生産レベル、そして木材を使う側、住む人への施策との連動がうまくいっていないと考えます。

問題点1 生産の再度を担う素材生産業者が人手不足であり、一部の地域に急激で大量な需要が発生しても、流通側の原木の取り合いでかつての流通の悪癖が復活し、健全な相場が形成されない
問題点2 国土保全の施業のセーフティガードが示されない限り、価格の上昇が施業の良質化に担保されない。(山主・素材生産者の手取りが増えるだけで山元に戻らないおそれ)
問題点3 さらに山主の山への意識の変化で、財産処分する山林が増え、国土保全機能がさらに低下する(隣地境界を知らない、知りたくもない山主が急増)
問題点4 大量の木材需要は、流通の都合であるため、均質の木材生産手法であり、数の少ない優良質の木材生産を駆逐してしまう。(選別ができない、大量の残材が山に残る)
※ゆえに伝統的な木造住宅が、無垢材の銘木扱いによって住まい手にとって手の届きにくいものになってしまう。
解決策

 森林認証というセーフティガードをもって、流通が差別化を行なえば、山への大きな支えになる。流通業者も社会性のある経済活動(企業でいうCSR)を担保することができる。

 素材生産業者も山のビジョンを示す効果もあり、「国土保全の担い手」という社会性を確保し、今後の担い手対策の一助にもなる。

 素材生産技術の評価によって、山元での木材の選定技術が残り、顔の見える流通を維持することが可能になる。

 フォーラムでも前提としましたように、たしかに素材生産拡大と伐採放棄地の発生は直接結びつかないのですが、大きな原因の一つ(はっきりいえば言い逃れの種)になっているのは事実です。先生のおっしゃるように現場の実感として、伐採届け受理を市町村業務としながら、その内容の検討や指導の余地を与えていないことに問題は大いに感じます。 その意味で、森林認証によるセーフティーガードは、流通の協力で大きな武器になる可能性があり、将来の森林法の改正の端緒になりえると考えます。

佐々木聡子氏(SGSJapan梶j

 フォーラムではありがとうございました。力不足ではありますが、少しでもお役に立てましたら幸いです。

 さて、フォーラムで話題となりました認証取得費の公的援助の件ですが、その場では、FSC及び認証機関の独立性の観点から、望ましくない趣旨での発言をしましたが、フォーラムの後、私なりにいろいろと考え、以下のように整理をしてみました。フォーラムにおいて、以下のような整理を申し上げれれば良かったのですが、
余裕がなく、言葉足らずの発言になってしまったようで、反省しております。

 FSC/認証機関は政府等公的機関からは独立した組織ではありますが、FSCの制度について公的機関がプラスの評価を表明することについては、当然問題ありません。例えば、英国政府は、政府調達においてFSCが持続可能な林業を保証するものであるとの評価をしている等の事例があるようです。

●審査費用を公的機関が負担することについては、審査機関の判断に対して影響が生じるような場合、問題となると考えます。

例えば、極端な例として
1.補助金で審査費用を支払う=成果物として必ず認証書の発行を要求する

2.審査機関の決定や審査手法に対し、公的機関から変更の要請が入る等が考えられます。

●逆に考えれば、上記のようなことがないように、公的機関からの審査費用の支援について制度を工夫すれば問題ないと考えます。
(例:認証取得時に公的機関から直接認証取得者に支援が渡るなど。)

 ところで、過去の事例で、他の認証機関において、実際に森林組合の認証取得に対して、公的負担(全額ではないかもしれませんが、一部の助成として)があったという事例があるそうです。(現在はその種の制度は廃止された模様ですが。)

 未だ整理しきれていない部分もありますが、取り急ぎご報告申し上げます。今後の議論の展開については、私も注目させて頂きたいと存じます。

藤掛一郎氏(宮崎大学助教授)

1.新生産システムと森林認証の連結について
 森林認証は一定の方針の下、施業が計画され、実施されている経営を認証する制度でしょう。「一定の方針の下、施業が計画され、実施されている経営」自体は、木材の安定供給(山側にとっては安定販売)ができるという点で、新生産システムと親和性が高いと思います。とりわけグループ認証されているような経営体の集合は新生産システムにおける林業経営集約化とよく重なると思います。具体的に、諸塚村の認証を受けているグループが新生産システムにおいて木材加工事業体と協定取引をすることは十分に考えられることと思います。

 しかし、そうして供給した場合、認証材としての付加価値を認めて加工し、販売してもらえる道が作れるかは分かりません。これは木材加工事業体との相談です。しかし、木材加工事業体にはプレカットまでやっているところもありますし、興味を持ってもらえるかも知れません。しかし、どのようになろうとも、森林組合が挽いて市場出しすることと比べれば、損はないのではないかと思いますが、どうなのでしょうか。 新生産に対する山からの主体性というのはもっと発揮されるべきこと
だと私も思います。1年がたって木材加工事業体がどのような施設整備をするのか、素材安定供給の問題点はどこか、何が可能か、不可能か、ようやく見えてきた段階だと思います。これからは、それに対して、どう山側に主体的に取り組んでもらうかが重要です。まずはちゃんと説明して、不信感みたいなものを取り除かないといけないのかなと感じました。

 これから売り惜しみ(伐り惜しみ)ということが問題になるのかも知れません。しかし、しようと思って売り惜しみできるのかということは疑問です。また、売り惜しみという言葉自体は否定的な意味合いのものかも知れませんが、経営戦略として長伐期化を含め、売り惜しみは当然真剣に考えるべきことだと思います。しかし一方で、少なくとも宮崎の場合、強い素材供給力を生かし、どう積極的に、先々まで考えて売る体制を作っていくかも考えていくべきではないかとも思います。

2 森林認証への公的支援
 森林認証の意義が私にはまだよく分かっていません。認証を受けていることが何を意味するのか。個人的にも分かっていませんが、一般的にもそうなのではないかなと思います。認証材が有利に販売されていないとしたら、一つの理由はやはり認証の意味が分かりにくいことにあるのではないかと思います。公的支援如何を論じるにもまずそこの理解を進める必要があると思います。

 タケノコの流通調査をしたときに、タケノコの水煮パックをスーパーで見ると、むしろ中国産に有機JASのマークが付いていて、国内産にはついていないと感じたことがあります。産地の条件が違うことも影響していると思いますが、外国産だとマークにアピールがあり、国内産ならば問題にされないのかなとも思いました。
 森林認証はだいぶ違う話しではありますが、国産材で認証が付いていることといないことにどのような違いがあるのか、よく分からないという点では同じことではないかと思います。認証制度そのものの課題でもあるし、認証を取っている経営体の課題でもあると思います。森林認証はできあがった制度ではなく、これから作っていく可能性のある制度であろうということについては、そうお感じなのではないでしょうか。

3 新生産システム
 新生産システムは、1)九州で30〜40万m3のA材需要が増えること、2)システムに参加している製材工場と協定取引で素材を売買することを模索してみましょうということが、まずは要点だと思います。生産流通の効率化やできるだけ立木価格を上げることなど、いろいろな考え方が盛り込まれており(詰め込みすぎか)、そのための計画作りや補助事業もありますが、その辺りはなるようにしかならないと思います。

 以上、感じたことを書かせていただきました。2の論点に関わり、FSCに取り組んだことで諸塚の山は変わったのか、変わりはしないが、何かが保障されるようになったのか、今後の展開をどう考えておられるのかなど、是非一度実態を見せていただければ有難いです。


   NEWSへ